「うちの会社、また同じものを翻訳してた」──複数部門で翻訳を発注している企業が陥りやすいムダの構造
2026.09.29
update 2026.08.21
![]()
翻訳の発注を一元管理できている会社は、意外と少ないのが現状です。
営業部門はピッチ資料の英訳を、マーケティング部門はWebコンテンツのローカライズを、法務部門は契約書の翻訳を──それぞれが「自分たちで動いた方が早い」と判断し、個別にベンダーを探し、個別に発注しています。
一見すると、各部門が自律的に動いていて効率的に思えます。
しかし実態を整理してみると、そこには「誰も得をしていないムダ」が積み重なっていることが多いのです。
このコラムでは、複数部門が独立して翻訳発注を行う企業でよく起きる「見えにくいムダ」を4つの構造に分けて解説します。
ムダ①:同じ原稿を、複数部門が別々に翻訳している
よくある場面
会社概要、製品説明、コンプライアンスポリシー。
これらは多くの場合、複数部門が「自分たちの用途に合わせて」翻訳し直しています。
– 営業部門が作った英語版の製品説明
– マーケティング部門が別途依頼した英語版の製品紹介
– IRチームが訳した事業概要
原文の8割は重なっているのに、翻訳コストは3倍かかっている──というケースは珍しくありません。
なぜ起きるのか
「他の部門が翻訳しているかどうか、知るすべがない」という構造的な情報の断絶が原因です。
社内に翻訳済みの原稿を管理する台帳や仕組みがないと、部門ごとに「とりあえず自分たちで発注する」ことが合理的な判断になってしまいます。
実務的な示唆
– 翻訳発注の前に「社内で既訳があるか」を確認するフローを作ります
– 翻訳済みドキュメントを一覧化した「翻訳資産リスト」を整備します
– 共通して使われる汎用的な文書(会社概要・製品説明)は「原稿管理の主管部門」を定めます
ムダ②:部門ごとに用語がバラバラで、翻訳品質もバラバラ
よくある場面
法務部門の契約書では “force majeure” と訳されているのに、マーケティング部門の資料では「不可抗力」と表現されている。
自社製品の名称が、資料によって英語表記で揺れている。
担当者変更のたびに、前回の翻訳との一貫性が失われてしまう。
外部のステークホルダーから見ると、「統一された企業体」として見えなくなってしまいます。
なぜ起きるのか
部門ごとに異なるベンダーを使っていると、統一された用語集(グロッサリー)が存在しない状態になります。
翻訳会社はそれぞれ「自分たちが受け取った原稿とブリーフィング」をもとに翻訳するだけなので、他部門が使っている訳語を知るすべがありません。
これは翻訳者の能力の問題ではなく、インプット設計の問題です。
実務的な示唆
– 全社共通の「翻訳用語集(グロッサリー)」を作成・管理します
– 特に、固有名詞・製品名・法的用語・社内専門用語は必ず登録します
– グロッサリーはベンダーへの発注時に必ず共有するルールを設けます
ムダ③:コスト交渉力が分散し、全体のコストが上がる
よくある場面
本来であれば月間の発注量が多い企業でも、部門ごとにバラバラに発注していると「小口顧客」として扱われてしまいます。
– A部門:スポット発注、1ページあたり単価X円
– B部門:別のベンダーにスポット発注、単価は高めだが担当者が慣れているから変えない
– C部門:社員が自力で訳しているが、時間コストは計算されていない
全社で合算すれば、十分な発注量があるにもかかわらず、ボリュームディスカウントも、ベンダーの習熟効果も得られません。
なぜ起きるのか
「翻訳費」が部門ごとの予算に分散しているため、全社のコスト全体像を把握する担当者がいないためです。
実務的な示唆
– 翻訳発注の全社合計コストを一度「見える化」するだけで、改善の優先度が変わります
– 主要ベンダーを集約することで、ボリューム交渉・優先対応・習熟コスト削減が見込めます
– 翻訳費は「部門予算」に分散させても、ベンダー窓口は1本化するという方針が有効です
ムダ④:「急ぎの翻訳」が常態化し、品質チェックが省略される
よくある場面
部門ごとに発注しているということは、翻訳の依頼タイミングが「担当者が困ってから」になりやすくなります。
– 明日プレゼンなのに英訳ができていない
– 締切直前に契約書の翻訳を依頼する
– 特急対応を繰り返しているうちに、割増料金が標準になっている
さらに、急ぎの場合はレビュー・校正のステップが省略されやすくなります。
ここで品質不備が起きると、後から修正・差し替えのコストが発生してしまいます。
なぜ起きるのか
「翻訳は制作工程の最後に依頼するもの」という認識が部門内に定着していると、必然的に納期が詰まってしまいます。
翻訳は素材を受け取ってから始まるため、上流工程の遅れをすべて吸収することになってしまいます。
実務的な示唆
– 翻訳工程を「最後の仕上げ」ではなく「制作工程の一部」として位置づけます
– 社内の制作フローに「翻訳依頼タイミング」の目安を明示します
– 特急対応の割増コストを記録・集計することで、早期依頼の重要性を予算面から説得できます
まとめ:「部門最適」の発注が「全社最適」を壊している
| 症状 | 構造的な原因 | 対処の方向性 |
| 同じ原稿を二重翻訳 | 既訳情報の共有なし | 翻訳資産の一覧管理 |
| 用語がバラバラ | グロッサリーの不在 | 全社共通用語集の整備 |
| コストが高どまり | 発注の分散 | ベンダー集約と全社コスト把握 |
| 特急対応が常態化 | 発注タイミングの遅さ | 制作フローへの翻訳工程の組み込み |
複数部門で翻訳を発注していること自体は問題ではありません。
問題なのは、「部門間で情報・資産・ルールが共有されていない」という構造です。
改善の第一歩は、自社の翻訳発注の全体像を「一度だけ」俯瞰することにあります。
発注部門・対象言語・ベンダー・発注頻度・コスト──この5つを整理するだけで、どこに最初のムダがあるかが見えてきます。
担当者が個別に動いているうちは気づきにくいですが、少し引いた目で見ると、「仕組みを直す」ことが最も費用対効果の高い改善策であることが多いです。
*このコラムは、翻訳・通訳サービスを提供するテンナインが、発注担当者の実務判断を支援することを目的として作成しています。
Writer
テンナイン・コミュニケーション
テンナイン・コミュニケーションは、法人向けに翻訳・通訳サービスを提供しています。契約書・マニュアル・Webサイトなどビジネス文書の翻訳から、会議通訳、翻訳者・通訳者の人材派遣まで幅広く対応。企業の海外展開・多言語対応を支援します。 【Webサイト】https://www.ten-nine.co.jp/



