翻訳会社に「専門性」を求めるとき、何を確認すればいいか
2026.09.24
update 2026.08.21
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翻訳会社のWebサイトを見れば、ほぼ必ずといっていいほど「医療・法務・技術など幅広い専門分野に対応」という記載があります。しかし発注後に「思っていたより品質が低かった」「専門用語の統一が崩れていた」という経験をした担当者は少なくありません。
なぜそうした齟齬が起きるのか。
原因の多くは、発注前の「専門性の確認」が、文字どおりの”確認”で終わっていたことにあります。
「専門分野に対応しているか」を聞いて「はい」と答えを得ることと、「その専門性がどのような仕組みで担保されているか」を理解することは、まったく別の話です。
この記事では、翻訳会社に専門性を求める場面で、担当者として何を・どのように確認すればよいかを整理します。
1. まず前提を整理する:「専門性」には3つの層がある
| 層 | 内容 | 例 |
| 分野知識 | その分野の概念・文脈・慣習を理解しているか | 医薬品の薬事規制の知識、金融商品の構造理解など |
| 用語・表現の統一 | 業界標準の用語を正確に使いこなせるか | IND申請書の定型表現、契約書における約定文言など |
| 文書形式の適合 | 成果物の形式・書式要件を満たせるか | 規制当局への申請文書、法廷提出書類の形式など |
翻訳会社が「専門分野に対応」と言うとき、この3つのうちどこまでをカバーしているかは、会社によって大きく異なります。問い合わせの段階で、この3層のどこを求めているのかを自社で明確にし、それを相手に問いかけることが出発点になります。
2. 「翻訳者」の専門性ではなく「体制」の専門性を確認する
よくある発注前の確認は、「専門知識を持つ翻訳者がいるか」という点に集中しがちです。しかし、実務上の品質は翻訳者個人のスキルだけでは担保されません。
翻訳の品質を左右する工程は、おおよそ以下のように構成されています。
翻訳(Translation)
↓
校正(Editing):専門知識を持つ第三者による内容確認
↓
校閲(Proofreading):文体・一貫性・誤字脱字の最終確認
↓
(必要に応じて)用語集・スタイルガイドとの照合
確認すべきは、この工程全体において、その「専門分野」をカバーできる人材・リソースが体制として存在するかです。
具体的に確認すべき質問例
– 翻訳と校正は、それぞれ別の担当者が行うか
– 校正者も同じ専門分野のバックグラウンドを持つか
– 用語集やスタイルガイドはプロジェクト単位で管理されるか
– 複数回の発注をまたいで、用語・表現の一貫性を維持できる仕組みがあるか
「翻訳者が医療系の出身です」という回答だけでは、体制としての専門性は判断できません。
3. 実績の「見せ方」で専門性の深さを見分ける
翻訳会社が提示する実績・事例は、専門性の判断材料になりますが、その見せ方によって深さが異なります。
信頼性が低い実績の提示パターン
– 「製薬会社との取引実績あり」など、クライアント名のみの提示
– 分野名の列挙(医療・法務・IT……)だけで、具体的な文書種別がない
– 実績の期間・規模・継続性が不明
信頼性が高い実績の提示パターン
– 「○○社のCTD(コモン・テクニカル・ドキュメント)翻訳を3年継続」など、文書種別と継続性が明確
– 「同一クライアントの案件において用語集を共有管理し、一貫性を維持」という工程説明がある
– 翻訳者・校正者のプロフィールに、当該分野での実務経験・資格が具体的に示されている
実績を確認する際は、「分野に関わった」という事実ではなく、「どのレベルの文書を、どのような体制で、どのくらいの期間にわたって担ってきたか」を問うことがポイントです。
4. 「テスト翻訳」の設計で確認精度を上げる
正式発注の前に試訳(テスト翻訳)を依頼することは、有効な判断手段のひとつです。ただし、テスト翻訳の設計が不十分だと、本来確認したい専門性が見えてこないケースがあります。
テスト翻訳で押さえるべきポイント
サンプルの選び方
– 自社資料の「判断が難しい箇所」を含む部分を使う
– 業界固有の略語・定義語・複合概念が含まれる箇所を選ぶ
– 一般的な文章だけでは専門性の差が出にくい
評価の視点
– 訳語が業界標準と合致しているか(社内専門家や監修者に確認できると理想的)
– 文体・書式が成果物として使える水準か
– 不明点の問い合わせや確認プロセスが適切だったか
注意点
– テスト翻訳の結果だけで全体の品質を断定することには限界があります
– 「試訳が良かったから本番も同じ翻訳者・同じ体制で対応されるか」は、別途確認が必要です
5. 「専門分野の変化」に対応できる更新性があるか
法律・規制・業界標準は時間とともに変化します。医薬品であれば薬事規制の改正、金融であれば開示ルールの変更、技術分野であれば新規格の策定などが継続的に発生します。
こうした変化に対して、翻訳会社がどのような情報更新の仕組みを持っているかも、長期的な発注関係を築く上では重要な確認点です。
確認すべき観点
– 翻訳者・校正者が当該分野の最新情報をどのように把握しているか
– 用語集・スタイルガイドのアップデートプロセスが定義されているか
– 法改正・規制変更が発生した際の対応フローがあるか
継続して発注する予定がある場合、この「更新性」は初回発注時と同等以上に重要な要素です。
まとめ:「専門性の確認」は、工程と体制への問いかけである
翻訳会社に専門性を求めるとき、担当者として整理しておくべき視点を改めて示します。
| 確認すべき問い | 確認ポイント |
| 専門性の「層」はどこか | 分野知識・用語統一・文書形式のどれを求めているか自社で明確化する |
| 体制として専門性があるか | 翻訳・校正・用語管理が機能する工程として組まれているか |
| 実績の深さはどうか | 文書種別・継続性・工程の具体性で判断する |
| テスト翻訳は適切に設計されているか | 専門性が試せるサンプルと評価軸を用意する |
| 長期的な更新性があるか | 規制・業界変化への対応の仕組みがあるか |
「専門性がある」という言葉は、確認の出発点にすぎません。その言葉の背後にある工程・体制・実績の具体性を問い返す習慣を持つことが、発注担当者としての判断精度を高める最も確実な手段です。
専門性の確認方法やテスト翻訳の設計についてご不明な点があれば、実務的な視点でご相談に応じます。
Writer
テンナイン・コミュニケーション
テンナイン・コミュニケーションは、法人向けに翻訳・通訳サービスを提供しています。契約書・マニュアル・Webサイトなどビジネス文書の翻訳から、会議通訳、翻訳者・通訳者の人材派遣まで幅広く対応。企業の海外展開・多言語対応を支援します。 【Webサイト】https://www.ten-nine.co.jp/




