翻訳の「戻し修正」が多い会社に共通するプロセスの問題
2026.07.28
update 2026.07.22
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翻訳の納品後に社内確認が入り、修正依頼を出す。修正したものがまた戻ってくる。その繰り返しで、当初の納期から大幅に遅れた——。
翻訳発注の担当者から、こうした経験を聞く機会は少なくありません。
多くの場合、「翻訳の精度が低かったから」という結論で終わります。しかし実際に修正のやり取りを詳しくたどってみると、問題の発生源が翻訳そのものではなく、発注前後のプロセス設計にあるケースが相当数含まれています。
「戻し修正が多い」状態は、品質問題ではなく、プロセスの問題として読み解くべき場合があります。
この記事では、戻し修正が構造的に発生しやすい会社に共通する5つのプロセス課題を整理します。
「誰が最終確認者か」が発注前に決まっていない
最も典型的かつ根深い問題が、承認フローの未定義です。
翻訳物は、担当者→上長→専門部署(法務・技術・マーケティングなど)→経営層、という複数のレイヤーで確認されることがあります。このとき、誰が「最終決裁者」かが曖昧なまま発注されると、次のような事態が起きます。
– 担当者が「これでOK」と判断した後、上長が別の観点で修正を指示する
– 法務確認を発注後に初めて設定し、用語や文体の大幅変更が発生する
– 関係部署それぞれが修正を入れた結果、方向性が矛盾する
このような修正の多くは、翻訳の品質とは無関係に発生します。問題は「確認の順番と権限」が設計されていないことです。
発注前に確認すべきこと
– この翻訳物の最終承認者は誰か
– 専門部署(法務・技術など)のレビューは必要か、そのタイミングはいつか
– 修正が発生した場合、誰が最終判断を下すか
「使用目的と読み手」が翻訳会社に伝わっていない
翻訳を依頼する際、ファイルとともに渡される情報が「納期・言語・分量」だけというケースがあります。これだけでは、翻訳会社側は誰に向けて、どのトーンで書くべきかを判断する材料がありません。
翻訳の文体・硬さ・専門用語の扱いは、使用目的と読み手によって大きく変わります。
| 用途 | 想定読み手 | 求められる文体 |
| 社内技術マニュアル | 専門知識のある自社スタッフ | 正確性・専門性優先 |
| 顧客向けWebコンテンツ | 一般消費者 | 自然さ・読みやすさ優先 |
| 契約書・法務文書 | 法律専門家・当事者 | 法的正確性・定型表現準拠 |
| プレスリリース | メディア・投資家 | ブランドトーン・格調 |
この情報が共有されないと、翻訳会社は一定の標準的な解釈で進めるしかありません。その結果、納品後に「もっと柔らかい表現にしてほしい」「法律用語はこの定訳を使うべきだった」という修正が発生します。
これは翻訳のミスではなく、指示の不足から生まれた修正です。
社内の「用語基準」が文書化されていない
自社特有の用語・表記ルール——製品名、サービス名、業界固有の定訳、社内で統一している言い回し——が、担当者の頭の中にしか存在しない状態は、修正の温床になります。
よく見られるのは以下のようなパターンです。
– 翻訳会社が一般的な訳語を使ったが、社内では別の定訳があった
– 前回の翻訳と今回とで同じ用語の訳が異なり、整合性の修正が必要になった
– 担当者が異動し、社内の表記ルールが引き継がれていなかった
こうした問題を防ぐための仕組みがグロッサリー(用語集)と翻訳メモリですが、これらを整備・提供している発注側はまだ少数です。
「毎回ゼロから翻訳会社に判断させる」状態では、一貫性の問題は構造的に発生し続けます。
最低限、発注時に整備しておくと有効な情報
– 固有名詞・製品名の表記と訳語対応表
– 避けるべき表現、統一すべき文体方針
– 過去の翻訳物のうち「これを基準にしてほしい」参考ファイル
修正の「理由」が共有されず、同じ問題が繰り返される
修正依頼のやり取りが「ここを直してください」という結果の指示に終始していると、翻訳会社側はなぜそれが問題だったのかを把握できません。
たとえば、「この文をもっとシンプルに」という修正指示だけでは、
– 日本語原文が複雑すぎたのか
– 翻訳が直訳的になりすぎたのか
– 社内の文体基準と合っていなかったのか
どの原因なのかが不明なまま修正が行われます。翻訳会社はその場の修正には応じますが、根本的な判断基準を学習できないため、次の翻訳でも同様のパターンが繰り返されます。
継続発注の関係がある場合、修正時の「理由の共有」は、翻訳会社にとってのキャリブレーション(精度調整)の機会です。理由の共有なき修正指示は、関係が長くなっても品質の底上げに繋がりにくい構造を作ってしまいます。
「確認にかかる時間」がスケジュールに含まれていない
発注から納品までの期間は確保されているが、社内確認・修正・再確認のバッファがないというスケジュール設計も、問題を大きくする要因です。
翻訳の工程は、翻訳会社への発注で終わりではありません。納品後に発注側が行う確認・フィードバック・最終承認も、実質的な「工程」の一部です。
納品物を受け取った翌日が対外的な使用期限、という状況では、修正が発生した時点でリカバリーできません。それを避けるために「修正ゼロで完璧な初稿」を求める圧力が生まれると、翻訳会社との関係にも不健全な緊張が生じます。
スケジュール設計の目安(例)
– 翻訳会社への発注 → 初稿納品
– 社内での内容確認(担当者):2〜3営業日
– 専門部署・上長レビュー:2〜3営業日
– 修正依頼・翻訳会社での対応:1〜2営業日
– 最終確認・承認:1営業日
この全体を見通したうえで逆算してスケジュールを設定することが、修正リスクを現実的に管理するための基本です。
まとめ:「戻し修正の多さ」は、発注プロセスの改善で減らせる
翻訳の戻し修正が多い状況は、多くの場合「翻訳会社の選定ミス」ではなく、以下のようなプロセスの未整備が組み合わさって起きています。
| 問題 | 本質的な原因 |
| 承認後にさらに修正が入る | 確認フローが発注前に定義されていない |
| 文体・トーンが合わない | 使用目的・読み手情報が共有されていない |
| 用語がバラバラ | 用語基準が文書化されていない |
| 同じミスが繰り返される | 修正の理由が翻訳会社にフィードバックされていない |
| 修正の時間がない | 社内確認工程がスケジュールに含まれていない |
これらの多くは、発注の「準備フェーズ」と「継続運用の設計」を見直すことで、改善の余地があります。
翻訳会社との関係を見直す前に、まず「自社の発注プロセスに上記の課題がないか」を棚卸しすることが、実質的な改善への最短経路かもしれません。
もし「自社の発注プロセスのどこに問題があるか特定したい」という場合は、現状の発注フローを整理したうえで、翻訳会社に相談してみることを検討してください。適切な翻訳パートナーであれば、翻訳そのものだけでなく、発注設計のレビューにも応じられるはずです。
Writer
テンナイン・コミュニケーション
テンナイン・コミュニケーションは、法人向けに翻訳・通訳サービスを提供しています。契約書・マニュアル・Webサイトなどビジネス文書の翻訳から、会議通訳、翻訳者・通訳者の人材派遣まで幅広く対応。企業の海外展開・多言語対応を支援します。 【Webサイト】https://www.ten-nine.co.jp/



