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翻訳レビューを社内担当者が行うときの正しい関わり方

2026.08.25

update 2026.08.04

翻訳会社から納品された翻訳文を、社内の担当者が一度確認してから使用する——これは多くの企業で行われている標準的な運用です。しかし、このレビュー工程で何をすべきか、あるいは何をすべきでないかが曖昧なまま進めてしまうと、品質の担保が難しくなるばかりか、プロジェクト全体の工数が膨らむ原因にもなります。

「翻訳者に戻す前に一応確認しておいて」という指示だけで動いている担当者は少なくありません。しかし、社内レビューは「誰が、何の目的で、何を見るか」が設計されていなければ、むしろ翻訳品質を損ねるリスクがあります。

本稿では、社内担当者が翻訳レビューに関わるときの役割の整理と、実務上の判断基準を解説します。

まず前提として:社内担当者のレビューは「言語チェック」ではない

翻訳レビューと聞くと、「原文と訳文を見比べて、おかしな箇所を直す作業」とイメージされがちです。しかし、これは翻訳会社側が行う「校正・校閲」の工程です。

社内担当者が担うべきレビューは、本質的に異なります。

レビューの種類担い手主なチェック対象
言語的正確性のチェック翻訳会社(校正・校閲工程)誤訳、脱落、文法的誤り
業務適合性のチェック社内担当者自社ルール、文脈、読者理解

社内担当者が見るべきは「翻訳が正しいかどうか」ではなく、「この訳文が自社のビジネス文脈で正しく機能するかどうか」です。

この区別が曖昧なまま進めると、「なんとなく気になった表現」を修正することで、翻訳者が意図した構造や一貫性が崩れるケースが生じます。

社内担当者が確認すべき5つの観点

1. 固有名詞・社内用語の統一
翻訳会社に用語集やスタイルガイドを提供していた場合でも、実際の運用と乖離が生じることがあります。社内担当者だからこそ判断できる最重要ポイントです。

確認すべき点
– 製品名・サービス名・部署名は自社の表記ルールに沿っているか
– 業界内の慣用表現と合っているか(特に特定の取引先や規制当局が使う表記がある場合)
– 同一文書内で表記が統一されているか

2. 読み手の理解に合った表現になっているか
翻訳文の「正しさ」と「読まれる文章かどうか」は別の話です。ターゲット読者が誰かを把握しているのは、多くの場合、社内担当者です。

確認すべき点
– 専門用語の難度が読み手のリテラシーに合っているか
– フォーマルさのレベルが文書の用途に合っているか(契約書か案内文かによって異なる)
– 社内では当然のこととして省略している文脈が、外部読者に伝わるよう補足されているか

3. 削除・追加すべき情報はないか
翻訳は原文を忠実に再現する作業ですが、社内の状況変化によって原文自体が古くなっているケースがあります。

確認すべき点
– 原文を作成してから状況が変わった事実(担当者名、日付、条件など)はないか
– 翻訳後の文書に付加するべきローカライズ情報(現地の連絡先、法的注意書きなど)が抜けていないか

4. レイアウト・フォーマットの崩れ
テキストが変われば文字数も変わります。図表・表・スライドの翻訳では、デザイン崩れが発生していないか確認が必要です。

確認すべき点
– テキストがボックスやセルからはみ出していないか
– 表の行・列ラベルと本文の対応がずれていないか
– 強調(太字・イタリック)の位置が原文の意図を反映しているか

5. 致命的な意味の逸脱がないか(ただし、確信がある場合に限る)
「全体として意味が通じているか」を確認することは担当者として適切ですが、個別の語句の翻訳の当否を判断しようとするのは慎重であるべきです。目標言語の高い運用能力がない場合、表面的な「違和感」に引きずられると、正確な訳文を誤って修正するリスクがあります。

社内担当者がやりがちな「過剰介入」のパターン

レビュー工程で問題が起きるのは、知識不足よりも「役割の逸脱」に起因することが多いです。以下は代表的なケースです。

パターン1:語感だけで翻訳を書き換える
「なんとなく硬い気がする」「もう少し柔らかい方がいい」という理由で文体を変更する。文体の選択は翻訳者がターゲット言語の文法・文化的規範に基づいて判断している場合が多く、感覚での修正はかえって整合性を崩します。

パターン2:対訳を見て「この単語の訳が違う」と判断する
英語であれば辞書を引いて確認できると思いがちですが、専門分野の翻訳では文脈・用法・業界慣行によって適切な訳が変わります。語義の正否の判断は、翻訳者への確認・問い合わせで行うべき事項です。

パターン3:別の翻訳者(または社内の英語話者)に「感想」を聞く
複数の目が入ることで気づきが生まれる一方、評価基準が揃わないと「誰の意見に従うか」の混乱が生じます。社内英語話者の指摘は意見として受け止め、翻訳会社への確認事項としてまとめることが望ましいです。

フィードバックを翻訳会社に戻すときの伝え方

社内レビューで気になった点を翻訳者・翻訳会社に戻す際、「修正してください」と結論だけを伝えることは避けてください。

有効なフィードバックには次の情報が必要です。
– どの箇所が対象か(ページ・段落・行番号で特定)
– 何が気になったか(読者に誤解を与える可能性がある、社内では別の言い方をしている、等)
– それは確定的な修正指示か、確認・相談事項かの区別

フィードバックの種類伝え方の例
事実の誤り「この製品名は〇〇が正式表記です。修正をお願いします」
確認依頼「この表現は社内では〇〇と呼んでいますが、どちらが適切でしょうか」
懸念・相談「エンドユーザー向けとしては難しすぎる印象があります。調整の余地はありますか」

「結果だけ指定する修正」は、翻訳者の判断のどこに問題があったかが不明なまま修正が行われ、同じ問題が繰り返されます。背景を共有する形でのフィードバックが、長期的な品質改善につながります。

まとめ:社内担当者の役割は「翻訳の審判」ではなく「文脈の提供者」

社内担当者が翻訳レビューに関わる最大の意義は、翻訳会社が持ち得ない「自社の文脈」を補完することにあります。言語の正確性は翻訳会社のプロセスに委ねつつ、業務適合性・固有の表記ルール・読者への適切性を確認する役割を担う——この分業を意識することが、レビュー工程の質を高める前提条件です。

発注前に整理しておくべきチェックポイント
– 社内レビュー担当者は誰で、何を見る役割かを翻訳会社と共有しているか
– 用語集・スタイルガイドは最新の状態で提供されているか
– フィードバックを戻すときの書式・ルートは決まっているか
– 「修正指示」と「確認依頼」を区別して伝える運用になっているか

レビュー工程の設計に迷いがある場合は、翻訳発注の初期段階で「社内レビューをどの範囲で行う予定か」を翻訳会社に伝え、役割分担を事前に確認することを推奨します。

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