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Written from the Mitten 木内裕也
木内裕也さんのアメリカレポート。2005年春―2006年夏まで、Hubbub from the Hubのニックネームで通翻訳者リレーブログを担当して頂きました。 現在ミシガン州立大学(MSU)博士課程在籍中の木内さんから見た、現地での生活やハプニング、大学のことなど、アメリカの今を発信します。 通訳・翻訳の話をまじえながら、幅広いテーマに沿ったレポート、毎週月曜日更新です!是非お楽しみに!

第50回

「コミュニケーション」

先週のコミュニケーション機器に続いて、今週もコミュニケーションについて。iPodの話をしていた友人と、今度はEメールのBCC機能についての話になりました。メールを送る際、同じメールを他の人にも送ることができるのがCC(カーボンコピー)機能です。例えばある情報を誰かと共有する際、その情報を送ったということを示すために同じ部署で働く人にCCで送ることがあります。メールを受信した人は、そのメッセージが誰にCCで送られたかわかります。BCCも同じように、メールのコピーを送る機能ですが、Blind Carbon Copyという名前が示すとおり、受信者は誰にコピーが送られたか見ることができません。

 まず興味深いのは、カーボンコピーと言う名称です。先週のiPodでは最新のデジタル機器がアナログ時計や昔のテレビのアイコンを使用していることを書きましたが、Eメールも同様です。カーボン紙を使ってコピーを作るとは、昔の領収書のような響きがあります。

 それより興味深いのは、私達が受け取るメールが誰にBCCで送られているか分からないだけではなく、BCCで誰かに送られているのかすら分からないということ。個人的なメールだと思っていたら、実は誰かの手元にBCCで送られている、という可能性もあるのです。今までもパーティーラインという電話サービスのように、複数の人と同時にメッセージを共有する方法はありました。しかしどんなに静かにしていても、パーティーラインでは雑音が入ったり、音質が変わったりして、なんとなく分かったものです。しかしメールのBCCでは、受信者にとってコピーが送られているかどうか分かる手段は無いのです。

 またメールの便利さとは裏腹に、メッセージを受け取ることの意味も変わっていると思います。手紙が手書きであるのに対し、メールはタイプしていますから、個人的な印象が無いのに加え、週末に配達が無かったり、1日に1回しか配達の無い郵便では、郵便受けを開けるときのワクワク感や、帰宅したときに思わぬ手紙が届いているときの喜びがありました。しかしメールの発達によってパソコンを開けていればメールが届くだけではなく、携帯電話にメッセージが転送されたりと、誰かからメッセージを受け取る特別さが失われているようにも思います。

 同じことが電話にも言えるでしょう。家に1つの電話しかない場合、友達に電話をしても家族が電話に出ることも沢山ありました。直接、本人と話をできるのは便利ですが、家族と少しだけ会話をすることで、友達の両親と話ができたり、家庭の様子が分かったりしたものです。また思い返してみれば、電話をするというのは家のどこか、特定の場所で行うものでした。コードレス電話の普及前は、寒い部屋に電話が置いてあると、寒さに震えながら電話をしたり、暖房のある部屋までコードを引っ張って電話で話をしたことがあるでしょう。携帯電話の普及でそんなこともなくなりました。

 利便性を手にした結果として、何か失われるものがある、というのはよく言われることです。しかしそれに加えて、「電話」や「手紙」という言葉を耳にして思い出すイメージや懐かしさも変わっているのではないか、と感じました。

第49回

「コミュニケーション機器」

日本でも話題になっているようですが、こちらでもアップル社のiPhoneが話題になっています。金額が高めのため、実際に使っている知り合いはあまり多くありません。しかし先日、友人が購入したと言う実物を見せてくれました。使い始めて彼女の関心を惹いたのは、iPhoneが引き起こすアナログとデジタルの融合、そして個人と企業の摩擦ということでした。彼女を含め、数人の友達とiPhoneをいじっていると、面白いことが見えてきました。

iPhoneにはボタンがなく、タッチスクリーン上にアイコンが示され、それに触れて操作します。電話を掛けるときにはスクリーン上のボタンに触れ、メールを送るときにはスクリーン上のキーボードに触れる、という具合です。また現在時刻を知りたいときには時計のアイコンを押し、YouTubeなどの番組を見るには、TVのアイコンを押します。興味深いのはこれらのアイコンのデザインです。見た目がすっきりして、デザインも現代的で、いかにも最新の携帯電話、というイメージのiPhoneですが、アイコンのデザインはなぜか懐かしさすら感じさせるものです。例えば時計のアイコンはデジタル時計の絵ではなく、時針と分針のあるアナログ時計。TVのアイコンは、ダイアル付きの昔のTVです。メールのアイコンは郵便で出すような封筒の絵。なぜこのようなデザインにしたのかはわかりませんが、あえて少し古臭いイメージを使うことで、iPhoneに対する馴染み深さが沸いてくるのも事実です。ただの最新型携帯電話だと、機能が沢山ついていて追いつけない、ということが起こりがちです。開発者が自分達の好奇心を結集して、色々な機能を1つの機械に入れたはいいけれど、ユーザーが使いこなせない、ということは多々あります。しかし何となく落ち着かせる昔のテレビや、アナログの壁掛け時計、昔ながらの封筒といったイメージは、「これなら自分にも使えるかな」と思わせることができます。こんな風にデジタルとアナログの融合が、iPhoneのスクリーン上で起こっています。機械は発達しても、人はやはりアナログの世界に惹かれるのかもしれません。

iPhoneのもう一つの特徴は、企業と個人の摩擦。そもそも携帯電話とは個人が使用するものであり、個性を反映させるものでもあります。例えばある人の携帯電話につけられたストラップ(アメリカ人は使いませんが)、電話帳に登録されている人、保存されている写真などは、その人の生活を映し出す鏡と考えられます。iPhoneはそんな「個人の生活の一部」という要素を、取扱説明書を使わないことで一層推し進めています。説明書はオンラインで読むことが可能ですが、新品の電話の入った箱には、説明書が入っていません。ユーザーはiPhoneに触れ、いじり、試行錯誤を繰り返して使い方を学びます。そして自分なりの「iPhone体験」を生み出します。これは小さな子供とおもちゃの関係に似ています。子供はもちろんブロックのおもちゃの説明書を読むことはしません。ブロックに触れ、いじり、試行錯誤することで、そのブロックを自分のおもちゃと認識し、色々な形を作り上げていきます。iPhoneのユーザーも同じ過程を踏みます。また、電話帳や写真以外に、音楽やビデオなども保存されていますから(アメリカの携帯電話では、それまであまり音楽やビデオを聞いたり見たりすることができませんでした)、これまでの携帯電話よりも個性が一層反映される電話です。

 しかし個性を反映させるコンピュータと違い、iPhoneは自分の好きなプログラムを保存させることはできません。パソコンであれば、好きなゲームをダウンロードしたり、またソフトウエアをダウンロードしたりすることもできますが、この電話では、アップル社が提供しているサービスの範囲の中でしか、ユーザーは身動きが取れないのです。従って、iPhoneの「個人的体験」は常にアップル社のコントロール下で行われているとも言えます。

 ただの携帯電話ですが、こんな風にちょっとだけ違った視点から見つめて見ると、今までとは異なる携帯電話の姿が見えてきました。

第48回

「竜巻警報」

ミシガン州は意外にも竜巻の被害が大きい地域です。昨年引っ越してくるまで、私も全く知りませんでしたが、秋になると竜巻が発生したり、暴風雨に見舞われることが少なくありません。大学の構内には避難の指示書きがありますし、警報システムも備わっています。車を運転している時に竜巻注意報が発令されてラジオ番組が中断されたり、テレビを見ていると「15チャンネルの竜巻警報を見てください」というメッセージが流れたりすることもあります。大半の場合は注意報が出るだけで、近所で竜巻が発生したり、大きな被害が出るほどの嵐になることはありません。しかし先週の木曜日ばかりは、そうもいきませんでした。

 用事を済ませて18時ごろ車でアパートに戻る途中、高速道路を走っていると、西のほうに大きな黒い雲の塊が見えました。「今夜は雨かなあ。明日はサッカーの審判があるけれど、芝が濡れていないといいなあ。」と思いながら運転していました。そのまま大学構内の図書館に向かい、リサーチで必要な本を数冊借りることにしました。必要な本が全て地下にあったので、窓の無い書庫に向かって20分くらいが経過した頃、サイレンとともに「竜巻警報が発令されました。建物から出ずに、地下に向かうか、トイレなど壁と柱に囲まれた部屋に避難してください。」というメッセージが流れました。すぐに地上階から沢山の人が非難して来ました。中には図書館の近くにいた人も避難してきたようで、突然の雨に見舞われ、ずぶ濡れの人もいました。

 警報は15分間位発令されたままでした。一時解除になって、私は急いで本の貸し出して続きを行い、アパートに戻りました。雨は降っていませんでしたが、道には折れた枝が落ちていたり、大きな水溜りができていたりしました。

 アパートに戻って1時間もしない頃、今度は自治体の警報システムが鳴り始めました。風が吹き始め、21時頃から数時間、サイレンが定期的になっていました。レッドソックスの野球中継を含め、大半のチャンネルは番組が中断され、気象情報が流れました。私は警報の途中で床につきましたが、翌朝外に出てみると、木の枝や色々なものが散乱していました。

審判仲間からのメールが届いたのは、金曜日の朝のことです。Masonという街(私のアパートから10分くらい)に住んでいる共通の審判仲間の家が竜巻の被害にあったとのこと。家から10メートル程度離れた小屋は無事だったそうですが、家の屋根は飛び、壁は崩れ、家財などは殆どが飛ばされてしまった、というメールでした。彼の家族は、メールをくれた友人の家で一晩を過ごしたようですが、片付けなど、是非手伝って欲しい、と書いてありました。20名近いレフェリー仲間が手伝いを申し出ましたが、実際には片付けるものはなく、ただ処分するばかりで人手は足りたそうです。彼も家族も無事であったのが何よりでした。本人からの連絡では、レフェリーグッズは車の中に入れたままで、家は失ったけどレフェリー用具は失わなかったから、土曜日の審判割り当てには向かうとの事。いい気分転換なのかもしれません。

竜巻と聞くと、TVで見るものか、運動会の行われる学校の校庭で渦巻状の風が吹く程度のものでした。しかし実際に警報が発令され、少し離れただけの地域が被害に会うと、意識を改めさせられる気がしました。

第47回

「ポピュラーカルチャー 」

大衆文化を専門にする学術誌で、The Journal of Popular Cultureというものがあります。この分野では非常に有名な学術誌です。私は今年の8月末から、その編集委員をしています。学術誌とは、研究者が独自の論文を作成することから始まります。それを編集者に送ると、内容が学術誌の趣旨と合致するものであるか、出典などの記載に誤りがないか等がチェックされます。問題がないと判断されると、ブラインド・ピア・レビューというプロセスに移ります。関係分野で博士号を取得している2名の専門家に論文を送付します。その際、誰がその論文を書いたか、どんな肩書きの人かなど、個人の情報はまったく与えません。フィードバックは「出版の価値あり」と「出版の価値なし」のいずれかです。2人の専門家が共に「価値あり」と判断したものだけが、出版につながります。私の働く大衆文化の学術誌では、10本の論文のうち、1本が出版につながるという、非常に競争率の高い統計があります。

 私と同じ役職についている人は5人いますが、職務は、まず最初に受け取った論文の内容が、学術誌の趣旨と合致しているか、内容に明らかな誤りが無いかを確かめることです。自分のよく知っている分野ならいいですが、時に個人的に知識の限られた分野の論文も届きますから、注意が必要です。しかし、一流の学者の論文がほとんどですから、アメリカ大衆文化研究の最先端の内容を知ることが出来る、という大きな特権があります。

何か問題があれば、執筆者に連絡を取り、修正を依頼します。問題が無ければ、登録している約100名の専門家の中から、その論文に最適な2名を探し、論文を送付します(提出の際、執筆者は電子コピーに加えて、ハードコピーを3部提出することになっています)。大体、3週間〜4週間で返事が届きます。結果に関わらず、出版を勧める理由や、勧めない理由が事細かに書かれていますので、それを読むだけでも、自分にとって非常に勉強になります。

学術誌は年に6回発行されます。1回に含めることの出来る論文数には限りがあります。今ではバック・ログと呼ばれる、出版待ちの論文原稿が2年分以上あります。つまり、今日、出版の価値あり、と判断された論文が日の目を見るのは、2年後ということです。ですから、2年経っても内容が見劣りしない論文であることも大切です。発行前には、出版社から原稿が届きます。その内容を確認するのも私達の仕事です。この段階になってしまうと、スペルや文法のミスを修正する程度で、よほど大きな問題(内容に偽りがあった、など)が無い限りは、修正を加えることはできません。

この様にして出版された学術誌は、大衆文化学会の会員や、購読者に送られます。また世界中の図書館に送られ、オンラインでも閲覧することができます。細かい数は公表していませんが、大衆文化に関する学術誌では世界最大です。しかし、実際にそれを編集しているオフィスは、写真のようにとても小さなもの。机が2つ、パソコンが1つ。それに本棚が1つと、フォルダーをしまうケースが2つあるだけです。

もしも大衆文化に関心のある方は(アメリカだけに限っていません)、なかなか面白い論文を見つけることもできるかもしれません。

第46回

「危機管理」

このブログのタイトルはWritten from the Mittenです。The Mittenというのはミシガン州の愛称ですから、「ミシガンからの便り」という意味です。しかしこのブログを書いているのは、ノースカロライナ州のシャーロットにある空港です。ASALHというアフリカ系アメリカ史の学会に出席していたためです。学会については、また別の機会に触れますが、今回はいつもとは違う環境でこの記事を書いています。

 さて、今週のテーマは危機管理。日本でも政府や企業の危機管理意識が次第に高まっています。また個人レベルでも、自宅に防犯設備を設置したり、家庭用のシュレッダーが普及したりして(ちなみに私の母も家庭用シュレッダーの愛用者です)、危機管理の広まりが感じられます。しかし今日のテーマとなる危機管理は、サッカーの審判員の危機管理です。レフェリーと危機管理、と聞くと、何か選手や監督に攻撃されるのか、と思ってしまいがちです(実際そんなこともありますが)。もちろんそんな危機管理も必要ですが、ここ数年、レフェリーが小児性愛者でないことを証明する必要が出ています。つまり、審判員としてユース年代以下の試合を担当することもあります。そんな時に、審判員が何かの問題を起こした場合、「サッカー協会としては、審判員が小児性愛者でないことを確認していたので、責任は無い」とするためのものです。つまり審判委員会やサッカー協会による、このようなリスクマネジメントが行われているのです。各州によって用件は異なりますが、ミシガン州では2008年のレフェリーライセンス更新をするためには、全てのレフェリーが危機管理カードを提出しなければいけなくなりました(18歳以下の審判員は除く)。

 このカードは、ネット上で入手できます。10問くらいの簡単な設問に答えるだけで、特に時間のかかる作業ではありません。アメリカ入国の際に提出する資料で、「これまで薬物所有で逮捕されたことがありますか?」というような質問に答えなければいけません。または飛行場でチェックインする際に、「知らない人から荷物を預かっていますか?」と聞かれます。わざわざYesと答える人はいないでしょうが、とりあえず質問をすることになっています。危機管理カードも同じで、これまでに性犯罪で逮捕されたことがあるかなどを、聞かれます。見本解答をして提出すると、1週間以内にカードが届き、手続きは完了です。

 危機管理カードはサッカー指導者の資格を取得するにも必要ですから、ユース年代のサッカーに少しでも関わる大人は、このカードを所有しています。子供達が問題に巻き込まれないようにしよう、という姿勢は見習ってもいいものかも知れません。しかし同時に、オンラインで質問に答え、カードを取得させ、それで責任を放棄してしまうサッカー協会の姿勢は望ましいものではないようにも感じます。もちろん協会としては、問題が発生して裁判になったときのことを考えているのでしょう。しかしカード1枚を取得させて、責任を逃れることのできてしまう現実には問題があります。

  このような姿勢は、アメリカが法社会であるからこそ発生するものでもあります。「いかに問題を起こさないようにするか」より「いかに自分の責任を逃れるか」に焦点が当てられてしまうのです。
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木内さんから一言
 2005年春より2006年夏まで、Hubbub from the Hubとして「通訳・翻訳者リレーブログ」に投稿をしておりましたが、今回からは本名を明かしての投稿です。
 この新コーナーでは、通訳や翻訳に関わる人々だけではなく、アメリカの現状を知りたいと思っている人々、コミュニケーションに興味のある人々、そして何となくこのページに辿り着いた人々にも楽しんでいただけるような情報を提供してまいりたいと思います。
木内さんへの応援メッセージはこちらから!!
 
プロフィール
 
木内裕也

フリーランス会議・放送通訳者。
長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、現在ミシガン州立大学(MSU)博士課程に在籍し、研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当。
翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うもティベイター・マネジメント」がある。
アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。
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